カラスを知りカラス対策に活かす
コラム5 カラス被害と対策の現状
この記事を書いたのは
代表取締役 塚原 直樹
博士(農学)
宇都宮大学特任助教
群馬県桐生高校卒業。CrowLab代表取締役。宇都宮大学にて杉田昭栄教授のもと、カラスの音声コミュニケーションの研究に従事し、博士取得。宇都宮大学特任研究員、総合研究大学院大学助教を経て、現在は、宇都宮大学特任助教。カラス研究一筋20年。主な著書にNHK出版『カラスをだます』。
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平成30年度のカラスによる農作物への被害金額は14億円である。鳥獣害全体の中ではシカ、イノシシに次いで第3位であり、鳥類では断然トップだ。被害の内訳を見ると、商品価格の高い果実への食害が占める割合が多い。ただ、カラスは雑食であり、トマトやキャベツなど、あらゆる農作物に被害がある。また、収穫期まで程遠いスイカやキャベツをちょっとずつ突くなど、食べる目的とは思えないイタズラと呼べるような行為による被害もある。
さらに、金額として計上されない被害も多い。例えば、畜産農家への被害として、家畜の餌の盗食、ラップサイレージのラップを突いて腐らせる、家畜の身体を突くなどが挙げられる。畜産農家が最も憂慮するのは、カラスによる家畜伝染病の拡散だろう。サルモネラ症が発生した牛舎において、出入りするカラスからサルモネラが検出された例がある。
このような被害に対し、カラスの死体を模したおもちゃやカラスが嫌がることをうたった光・電子音を発生する装置など様々な対策製品があるが、その多くはカラスの生理・生態を無視しているため効果は限定的である。カラスは警戒心が強い動物であり、目新しい物があると、とりあえず近づかないという行動を選択するため、多くの対策製品で一時的な忌避効果は認められる。伝統的な鳥獣害対策である「カカシ」による効果と原理は同じであるため、著者らは、この一時的な忌避効果を「カカシ効果」と呼んでいる。対策製品の中には、この「カカシ効果」の映像などを見せることで、効果をうたうものもあるが、カラスは賢く、慣れてしまうため、やがて効果はなくなる。対策製品を購入したものの、設置後すぐに効果がなくなり、残念な思いをされた方も多いのではないだろうか。本連載では、カラスの生理・生態を紹介すると共に、科学的根拠に基づく効果的な対策法を提案する。
本コラムは、農業共済新聞2019年11月2週号に掲載された内容を転載しております(一部修正している場合があります)。
紙面は以下よりダウンロードできます。
カラスの生態をもっと詳しく知りたい方に
CrowLab代表の塚原の著書『カラスをだます』では、身近だけど意外と知られていない、誤解されているカラスの生態や、また身近なもので今すぐできるカラス対策なども紹介してますので、ぜひご覧ください。
この記事を書いたのは
代表取締役 塚原 直樹
博士(農学)
宇都宮大学特任助教
群馬県桐生高校卒業。CrowLab代表取締役。宇都宮大学にて杉田昭栄教授のもと、カラスの音声コミュニケーションの研究に従事し、博士取得。宇都宮大学特任研究員、総合研究大学院大学助教を経て、現在は、宇都宮大学特任助教。カラス研究一筋20年。主な著書にNHK出版『カラスをだます』。
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